#76 天然物を人工的に作れ!全合成のロマン
#科学系ポッドキャストの日 の共通テーマ「人工」に関連して、天然物の全合成の話をしました!複雑で果てしない合成の道がそこにはある!
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はじめに:化学系ポッドキャストの共通テーマ「人工」
こんにちは、かねまるです。 プラントライフは、化学プラントの技術者が、化学を軸に皆さんの視野を広げていく番組です。
今回は、化学系ポッドキャストの日という企画に参加しています。 毎月、化学系ポッドキャスト番組も、そうでない番組も含めて共通テーマに沿って話す企画です。
毎月、ホスト番組が決まっておりまして、3月のホスト番組は、ものづくりのラジオさん。 私も、いろんなイベントでお世話になっておりまして、
ものづくりに関するトピックを、分かりやすく、面白く、なおかつ高度に紹介していただく番組となっております。
そんなものづくりのラジオから、共通テーマは人工です。
人工知能、人工心臓、人工芝、人工樹脂などなど、化学の分野には人工とつく言葉、いろいろあるよね。
あなたの専門分野にまつわる人工○○の話を聞かせてください、とのことです。
この番組では、天然物を人工的につくれ、全合成のロマンというテーマで話してみたいと思います。
化学の世界にも、かなり昔から人工があります。
それは、自然界にある分子を人間が人工的につくるという取り組みです。
なんでそんなめんどくさいことをわざわざやるのか。
今回はそのあたりを、化学にあまりなじみのない方にもつたわるように、できるだけ反応式抜きで話してみようと思います。
天然物とは何か、そして全合成の必要性
まず、タイトルにある天然物って何かというと、ざっくり言うと生き物がつくっているような化学物質です。
植物がつくる香りの成分とか、色素とか、毒もそうですね。
あとは薬のもとになる成分とか、そういうものです。
天然物っていうと、おそらく鉱石なども含まれると思うんですけど、今回は天然有機化合物という分類に絞って話をします。
それで、その天然物の全合成というものが行われているんですけど、
全合成っていうのは、天然から取れるものを実験室の中で比較的単純な原料から順番に組み立てて作ることなんです。
つまり、天然のものを人工的に合成する。
自然がもう作ってるんだったら、それ使えばいいじゃんって思うかもしれないんですけど、まあそれもごもっともです。
ただ、そういうわけにもいかないところがありまして、天然物って意外とそんなに簡単に取れないんですよね。
例えば、植物の中にほんのちょっとしか入ってないとか、海の中にいる生物から少ししか取れないとか、
たくさん取っちゃうと同植物がそもそもいなくなってしまうとか、自然界に悪影響を与えてしまいますよね。
つまり、自然界にはあるけど使いたい量を集めるのが難しいということがよくあります。
だからこそ、石油などから取れる原料を使って薬にあたる成分を作るとか、そういうことってすごく大事なんです。
全合成への道のり:構造決定から設計まで
じゃあ合成を始めよう、と思ってもまずやることがあります。
何を合成するんですか、という話です。
今までの傾向からして、何かそれは効果があるかもしれないけど、どんな化学構造式をしているのかがわからない。
そういう時、まず単離というものを行います。
同植物から取れる成分というのは一つだけじゃありません。混ざりものです。
まずは必要な成分を特定して、化学構造式を決めないといけません。
複雑な混合物の中から目的の成分をちょっとずつ取り出して、きれいにして、やっと多分この成分だろうなってところまで持っていきます。
その後、いろんな分析装置を使って構造を決めていきます。
ここまでできたら、今から天然物の全合成の始まりです。
まず作る分子の形を見て、どうやって組み立てるのか考えないといけません。
パズルみたいな感じです。
一気には作れないんで、どうやってどこの骨格から作っていくのか。
官能基という分子の機能を表すような部位をどこに入れるのか、どのタイミングで入れるのか。
せっかく入れた官能基が他の操作をした時に壊れないかとか、そういうことも考えないといけません。
特に天然物っていうのは構造がすごく複雑で、操作自体も高度になっていきます。
合成する工程の数も他の化合物に比べて天然物は長くなる傾向にあります。
化学反応が複雑で、工程も長い。
とにかく作るのが大変なんです。
合成の難しさ:理論と実践、そして収率
この作り方をどうやって設計するかが研究者の腕の見せどころです。
ただこういう知的な作業だけじゃないんですよね。
これは天然物の合成に限ったことではないんですけど、
分子を合成する時、合成作業に関する技能が求められます。
平たく言うと、実験が上手いかどうかっていう話です。
天然物の合成ルートを描いたからといって、
思った通りに反応が進むわけではないです。
欲しいものが少ししかできなかったり、
副反応といって目的物じゃないものができたり、
蒸留やろ過、クロマトグラフィーなどの操作で、
きれいにする時に目的の成分がなくなっていくということもあります。
反応させる時の温度のかけ方とか、混ぜ方とか、
原料の入れ方、きれいにする方法とか、
いろんな操作に対して技能が求められて、
上手い人はやっぱり上手いです。
理論が分かっていても、実際にできるかどうかはまた別なんですよね。
よく言われるのは、料理が上手な人は実験が上手いっていう話を聞きます。
中でも特に意識をするのが収率です。
入れた原料に対してどれくらい目的の成分が取れるかっていう割合なんですけど、
例えば一つの工程が収率90%だったら、
なんかたくさん取れたような感じがするんですけど、
特に天然物は工程が多いという話をしました。
例えば収率が90%で10工程続くと、
だいたい3分の1くらい、30%くらいの収率に落ちてしまいます。
収率80%が10回続くと1割くらい、
70%が10回続くともう数%なんです。
何度も言いますが、全合成は特に工程の数が多いので、
その各工程の収率が非常に重要になります。
何なら最初の方の合成っていうのは、グラムスケールって言ったりするんですけど、
スケールと分析:合成の地道なプロセス
何十グラムっていうたくさんの量の合成から始めます。
私がよく学生の時にやっていたのは、
数十ミリグラムとか数百ミリグラムで合成したりっていうのがよくありましたので、
それに対して何十グラムっていうのは、
自分の中では考えられないぐらい大容量なんです。
そしてもう一つ忘れちゃいけないのは、
各工程で合成した後に分析をしないといけないです。
めんどくさいんですけど、
ちゃんと一回一回目的のものができたのかっていうのを確認しないといけません。
この分析でこういう化学構造式ですって出るわけじゃなくて、
ちょっとややこしいんですよね。
原子の数がこんだけありますとか、
水素原子同士はこういう関係にありますとか、
分析の特性上そういう回りくどい情報がいっぱい手に入って、
そこから目的の化合物ができてるであろうと判断します。
その分析でできたねってすぐ判断できたらいいんですけど、
分析すると思った構造になってない何であろうってことがよくあります。
水素が一個足りないとか、
なんでこんなとこにも水素あるんやろうとか、
思ったものができてないとき、
何ができたのか皆目見当もつかないときがあるんですよね。
入れた原料に対してどういう反応機構、
仕組みで反応が進んだかっていうのを必死に考えて、
それでこの反応の仕方だったらこういう化合物ができる。
だから今の分析結果に合うだろうっていう形で、
できた化合物を想定していきます。
より複雑な化合物、合成ルートになってくると、
立体っていうのも重要になってきます。
全合成の具体例:カフェインとテトロドトキシン
少し前、#74、化学式は3次元で見るべし、
興味深い立体化学の世界というところでも話をしました。
紙に書くと原子同士すごく離れてるんだけど、
立体で見るとものすごく近づいていて、
意外と反応しやすい場所にあったりするっていうこともあります。
今話した内容っていうのは有機化学全般にも言えることなんですけど、
特に全合成に関しては複雑で反応ステップが多いんで、
かなり泥臭くなってきます。
地道に条件を振って少しずつ前に進めていくっていうイメージがありながらも、
大きいブレイクスルーが求められる分野でもあると私は考えています。
研究内容に特に上下はないとは思うんですけど、
自分が有機合成をやっていたからこそ、
全合成の研究をされている方っていうのは尊敬しかありません。
ここで一つ天然物の全合成の例を挙げてみます。
身近なカフェインですね。
コーヒーに入っています。
カフェインは19世紀、フィッシャーさんが行いました。
化学を専門的に勉強した方ならもちろん知っている
フィッシャーエステル合成とか、
フィッシャー投影式のフィッシャーさんです。
当時の十分な分析装置が揃っていない中で合成したっていうのが
もちろんすごい話ではあるんですけど、
フィッシャーさんはそれに関連して
プリンという原子の集まりみたいな
プリン構造というものを発見しています。
カフェインも含めて何種類かの分子が
プリンという特徴的な化学構造を持つということを示しているんです。
全合成の研究っていうのは単純に合成するだけじゃなくて、
こうして副産物として新しい反応を見つけたりとか、
新しい構造を見つけたりということがあります。
もう一つ天然物の全合成の事例を紹介しますと、
テトロドトキシンです。
これはフグ毒の成分ですね。
聞いたことある方も多いんじゃないでしょうか。
このテトロドトキシンというのがすごく複雑な化学構造を持っておりまして、
まず一つの成分として単離できたのが1909年。
その後1964年にやっと化学構造が解明されました。
そしてさらに1972年、化学構造が解明されてから8年が経過して、
やっとテトロドトキシンの合成が報告されました。
ただ、実はこの合成されたもの、ラセミ体なんです。
#74、立体化学の話で出てきました。
テトロドトキシンも化学構造は同じだけど、立体的に見ると、
右手と左手みたいな鏡写しの化合物があります。
これが一対一で入っているラセミ体として合成されたのが1972年です。
そこからさらに立体的な形まで再現したのが1900と言いたいところなんですけど、2003年です。
改めてテトロドトキシンの全合成の歴史を振り返ります。
1909年に単離されました。
そこから1964年に構造が決まりました。
そして1972年、やっとラセミ体が合成されて、
最後に2003年、最初の不正全合成に成功しました。
この時、70近い工程の反応が行われたそうです。
70ステップ、恐ろしいですね。
テトロドトキシンの全合成の歴史と現代の研究
長いステップを合成するっていうこと自体が大変なのはもちろんなんですけど、
そもそも当時は70ステップで終わるのかというのもわからないですし、
その反応が正しく進むのかもわかりません。
テトロドトキシンの化学構造ってすごくこみ入っていて、
作りにくそうだなっていうのが見るだけでもわかるんですよね。
それを作り上げた、素晴らしいなと思います。
実はこの分子、合成したという論文がまだまだ報告されておりまして、
2026年1月22日の論文は、16段階で合成しましたという報告があります。
今でも、ただ作れましたで終わらせるんじゃなくて、
もっと短く、たくさん作れるように研究が進められています。
それに付随して、新しい反応も生まれていくというわけです。
全合成研究の現在と未来、そしてまとめ
今回は天然物の全合成の話をしました。
このきっかけで全合成って調べたら、スペースオアコンってサジェストが出るようなのを知りました。
結構意外で、そういう見られ方をしてるんだなって思って調べてみると、
最近は化学研究に関する予算も厳しくなってきて、
単純に作るだけで終わらせるような時代じゃなくなってきたって意味じゃないかなと感じています。
個人的には、終わったってより評価されるポイントが変わったんだと思っています。
昔と同じように難しい山にどれだけ登ったかってことは重要なんですけど、
今はそれに加えて、結果がどうつながっていくのかとか、さらに広げられるのか、機能として役に立つものなのか、
もっと言うと、酵素とかそういう生物的なものを使って新しい取り組みを行っているか、
などなど、地道にただ難しいものを作るだけの時代は終わったっていうことなんだと思います。
今回の話で、昔から人は自然の分子に全力で向き合ってきたんだなっていうところを思っていただけたら嬉しいです。
まずは、全合成という言葉だけでも覚えてみてください。
研究に関する報道でもしかしたら聞くかもしれません。
全合成したっていうだけでものすごい成果なんです。
今回はここまでです。
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興味のある方はぜひ覗いてみてください。
それではお聞きいただきありがとうございました。



