参考資料
- 【訃報】ノーベル化学賞受賞者 白川英樹名誉教授|筑波大学 https://www.tsukuba.ac.jp/news/20260903154606.html
- The Nobel Prize in Chemistry 2000 – Popular information|ノーベル財団 https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2000/popular-information/
- Hideki Shirakawa – Biographical|ノーベル財団 https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2000/shirakawa/biographical/
- 白川英樹「学際領域における導電性ポリマーの研究とノーベル化学賞」(オーラルヒストリー)応用物理 77巻8号 2008年|応用物理学会 https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/77/8/77_903/_pdf/-char/ja
- 白川英樹「導電性高分子の発見と導電機構」化学と教育 67巻2号 2019年|日本化学会 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/2/67_82/_pdf
- 白川英樹「導電性高分子」Electrochemistry 71巻7号 2003年|電気化学会 https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/71/7/71_586/_pdf
- PEDOT:PSSとは?(導電機構と用途)|ナガセケムテックス https://group.nagase.com/nagasechemtex/denatron/museum/whats-denatron/20241014/
文字起こし
白川英樹氏の功績と導電性プラスチックの紹介
こんにちは、かねまるです。 プラントライフは、化学プラントの技術者が、化学を軸に、皆さんの視野を広げていく番組です。
今回はですね、いつもとちょっと違う感じで始めたいんですけど、 2000年にノーベル化学賞を受賞された白川英樹さんが、8月24日に亡くなられました。
90歳だったそうです。 今回は追悼の意味も込めまして、白川さんがどんなことをされたのか、なぜノーベル化学賞を受賞したのか、そういったところについて話をしていきます。
まず前提の話です。 プラスチックというのは基本的に電気を通しません。
比較的身近なもので言うと、電線がありますかね。 真ん中は電気が通る銅線、金属の銅の部分です。
それだと感電しちゃうので、銅線の周りにビニールを覆っています。 ポリ塩化ビニール、ビニールです。
これはプラスチックが電気を通さないので、絶縁材料、被覆材料として使えるってことです。
だから電気周りっていうのは結構プラスチックが使われてまして、例えば電気を遮断するブレーカーっていうのは、周囲の容器の部分はプラスチックでできています。
だからこそ電気を通すプラスチックっていうのがあまりイメージないわけです。
とは言いつつも、これから紹介していく白川さんの功績から始まり、現在は私たちのスマホの中には電気を通すプラスチックが普通に入っています。
この実用化の話は後半に回すとして、まずは初の電気を通すプラスチックを見つけるところから始めていきます。
導電性高分子の発見とポリアセチレンの基礎
ノーベル化学賞の受賞の理由というのは、導電性高分子の発見と開発です。
導電性っていうのは電気を通す。
高分子はプラスチックという意味です。
それを発見して開発したというところが受賞の理由です。
よく言われがちなのは白川英樹さんが導電性プラスチックを発見したという話をされるんですけど、
そこはちょっと惜しくて、ディスカバリー&ディベロップメント、発見と開発ということで、
ただ見つけたというよりは、今回すごいところは、導電性高分子の均一な薄膜を作れるようにして色々な測定ができるようになったこと。
つまり色々な性能評価が定量的にできるようになったことです。
そしてその評価を用いて、さらに電気を通すにはどうしたらいいかっていうところまで見つけ出したのが受賞の理由です。
今回主役になるのがポリアセチレンという分子です。
ポリっていうのはたくさんっていう意味でして、
アセチレンという分子がたくさんつながってできたすごく長い分子という意味合いです。
そもそもプラスチックっていうのは、ちっちゃい分子が長くつながってできたポリマーと呼ばれるものなんです。
容器とか袋とか、そういう汎用的なプラスチックについても、
例えばエチレンがたくさんつながってポリエチレンになっていたり、
プロピレンという小さい分子が長くつながってポリプロピレンという分子になって使われています。
このポリってついたらプラスチックだなって思っても差し支えありません。
多分例外はないとは思うんですけど、基本的にはポリがついたらプラスチックです。
では今回主役ポリアセチレンの元になるアセチレンというものについて考えてみます。
ポリアセチレンの合成と共役構造の重要性
アセチレンっていうのは業界によっては有名な物質でして、ガス状のものです。
よく使われるのがアセチレンバーナー。
アセチレンと酸素を混ぜてものすごく強くて高い温度の火を作ることができます。
これを何に使うかっていうとガス溶断。
私も工場という仕事柄よくアセチレンバーナーを使っているシーンを見るんですけど、
ものすごく強い温度で鉄骨を溶かして切るんです。
だから切断ではなくて溶断なんです。
このアセチレン自体はガス状ということもあって分子としては非常に小さいものです。
このアセチレンガスと反応を促進する触媒というものを合わせてプラスチックを合成していきます。
プラスチックを合成するときイメージは分子同士がどんどん手をつないで伸びていく感じです。
袋なんかに使われるポリエチレンからまず考えてみますと、
炭素と炭素が2本の手でつないでいるようなイメージですね。
そのつないだ2本の手のうち1つを離して外側に向けます。
つないだ手が1本ずつ外側に向いているので他の分子とも手をつなげるようになります。
そうやって長く手をつないで伸ばすことができます。
プラスチックの合成を分子レベルで見たらこんなイメージなんですよね。
自分たちだけでつないでる手をどこかを切り離して、外の人と手をつないで伸びていく、そんな感じです。
アセチレンも似たような形で、エチレンと違って今度は手が3本です。
ちょっと人ではイメージしにくくて、ポケモンのカイリキーを例に出すにもちょっと足りないような微妙な感じです。
でもやることは一緒で、アセチレンという分子1人で手が3本つながっているところのうち1つを切り離します。
隣のアセチレン同士でそれで手をつないでいく感じです。
だから合成してプラスチックとなったポリアセチレンの分子構造で見ると、手が1本2本、1本2本って交互に繰り返しながら伸びていく感じです。
この1本2本って繰り返すのが結構大事でして、専門的には共役という構造になります。
1本だけでつないでいる手を離すと、もちろん切れてしまいますね。
でも2本つないでいるところの1本を切り離したとしても、長い分子構造っていうのはそのまんまですよね。
だから手のつなぎ方に自由度があるんです。
今2本つないでいるところを切り離して1本にして、1本のところを2本にしよって、そんな感じで自由度を上げて変えることができます。
これまで話していた手の動きっていうのは、実際には電子の動きです。
共役という手が1本2本、1本2本って繰り返しているものっていうのは、電子がいろんなところに動きやすい構造になっています。
この共役を持つっていうのがポリアセチレンの特徴でして、多くのプラスチックっていうのはこの共役構造を持っていません。
少し話がずれますが、電気も電子の話です。電子の移動で電気が流れています。
電気が流れるのは電子が自由に動いているから、それに対して今回主役のポリアセチレンは電子が動きやすい共役という構造を持っています。
なんか電気流れそうじゃないですか。
偶然の薄膜発見と触媒濃度の逸話の真相
ということでポリアセチレンの合成っていうのは当時も行われていたんですけど、
ただ、その時に合成されるものって作るとなんか黒い粉になるものでして、
溶けないし、形を作ることもできないし、実用性が低いのはもちろんのこと、作ったものの材料としての評価が難しかったんです。
そんな中、白川さんが偶然薄膜として合成する手法を見つけました。
当時の合成方法というのはフラスコの中に触媒という反応を促進するような液を入れていました。
そこに原料となるアセチレンのガスを吹き込みます。
韓国から来られた方にポリアセチレンの合成をやってみてもらったところ、
圧力が下がらないとか、フラスコの中を混ぜるための撹拌子と呼ばれる棒みたいなものが回らないっていう報告を受けていました。
特に難しくない実験らしくて、失敗したからとりあえずもう一回やってみてって言ったらよかったんですけど、
白川さんは一応反応装置を調べてみたそうです。
報告の通り、圧力の変化がなくて、混ぜる装置、撹拌子も止まっていたという状況でした。
そのフラスコの中をよく見ると、黒くはなっているものの、様子が少し違ったようです。
触媒が入った液の表面っていうのは、ただ液体がいるなっていう感じではなくて、なんだか黒い膜が張り詰めているような感じだったそうで、
その膜が回転子に引っかかって回らなかったそうです。
当時の様子がはっきりわからなかったんですけど、おそらく牛乳の表面のところに膜張るイメージなのかなって思っています。
その膜自体がポリアセチレンでして、ただの黒い粉じゃなくて薄膜ができちゃったんです。
まさに偶然の産物でした。
当時失敗しましたって話に対して、現物を見ずにもう一回仕込み直してみようかってことで作り直したら、もしかしたらこの功績はなかったかもしれません。
こうして偶然できたポリアセチレンの薄膜。
なぜできたかという有名な話があります。
それは、触媒を1000倍入れ間違えたら薄膜ができたという逸話です。
わかる方だけに詳細にお伝えすると、必要な触媒の量がミリモルというオーダーだったのに対し、その1000倍のモルの量で入れられていたそうです。
だから単位を取り違えて1000倍の量の触媒を入れてしまったっていう話が、ノーベル化学賞の話をするときによく言われるんですけど。
この話、白川さんの寄稿した文章を見ると、真偽は定かではないそうです。
そもそもですね、触媒の液体を入れるフラスコの容器が数百ミリリットル程度だったらしくて、1000倍の量っていうのは入らないみたいなんですよね。
白川さん自身は、この1000倍取り違えたっていうところの真偽は定かではないと話されているんですけど、
最終的に触媒の濃度を1000倍濃くして薄膜合成をするのが最適の濃度であったっていうところは最終的に突き止められています。
1000倍に取り違えた量が最適な濃度だったので、なんだかそれっぽい逸話に聞こえてくるっていうことなんでしょうね。
私も大学では化学を学んでいましたので、この逸話っていうのは聞いたことがあるんですけど、
今回話すにあたって色々白川さんのことを調べてて、たまたま寄稿された文章を見つけまして、
え、これ違うんだって、ついさっき衝撃を受けたとこです。
でも言われてみたら1000倍の量って現実世界で見ると全然違いますね。
調味料で塩コショウとか考えてみましょうか。
1gの塩コショウではなくて1kgの塩コショウ入れちゃったみたいな話だと思うんですけど、
さすがに気づきますし、なんなら入りきらないみたいなことも当然ありますね。
触媒の濃度を1000倍にして合成するっていうのは、
アセチレンのガスが触媒の液に触れた瞬間にその場でどんどん反応してしまうっていうことです。
液の中に溶け込んで粉になるような暇もなくて、液の表面に膜として溜まっていくっていうことなんですけど、
だからこそ湯葉みたいな感じで表面の膜がフィルムとして剥がせる形になったんです。
この薄膜状にすることで様々な分析ができるようになりました。
ポリアセチレンの電子の状態がどうなっているか、
分子構造が細かく見ていくとどうなっているのか、
そしてこのプラスチックになるまでポリアセチレンというものが
単体のアセチレンからどのような経路をたどって合成されていくのかっていう機構の解明も行われました。
電気がどれくらい流れやすいかということを示す電気伝導度ももちろん測っています。
ドーピングによる導電性向上とメカニズム
こうして薄膜を作って基礎的な研究を進めたことが、まず一つ目、ノーベル化学賞受賞の理由です。
そこから原理がわかると性能を向上させる取り組みができるようになってきます。
ポリアセチレンの性能を向上させるにはドーピングという手法が有効でした。
臭素ですとかヨウ素という元素を加えることで性能が段違いに上がったんです。
最初に臭素を入れたときは4桁か5桁ぐらい上がったということで圧倒的な性能向上につながっていたんです。
これがケミカルドーピングというものです。
ドーピングに使った元素を見ていきますと、臭素とかヨウ素です。
これらはハロゲンと呼ばれる分類に入りまして、周期表でいうと右から2番目の縦のところ、17族に該当します。
このハロゲン自体が電子受容体というものでして、平たく言うと電子を求めるような元素ですね。
今回主役になっているポリアセチレンというのは、手が1本2本と交互につながった共役した分子でした。
手が1本2本って比較的繋ぎ替えやすいとは言っても、金属みたいに自由に電子が動き回れるというわけではなかったんです。
そこでドーピングに使われたハロゲン、臭素やヨウ素がポリアセチレンの電子を一部奪っていきます。
そうすることで電子がない部分があるので、別のところから電子が移動してきて入り込んで、移動した元のところはまた電子がなくなって、隣から入り込んでという形で玉突きみたいな感じで電子の流れができてきます。
これによって電気が流れるプラスチックが生まれたわけです。
導電性プラスチックの実用化と白川氏の探求心
最後にこの導電性のプラスチックっていうのがどういう場面で使われているかというのを紹介します。
今まで電気が流れなかったものが流れるようになる、ということで電気関係の材料ですね。
よく聞くのはタッチパネルのディスプレイ、その他にもセンサー用の電極です。
今までは金属材料に頼りがちだったところからプラスチックが採用できるようになってきました。
ただしこれまで紹介してきたポリアセチレンっていうのは電気を流せるには流せるんですけど、実用的ではなかったみたいです。
代わりに材料として性能のあるポリチオフェンとかポリピロールなどが使われています。
結局電気は通せるんだけど材料として使うには難しいところがありました。
とはいってもこれまで紹介してきた基礎研究が元になって実用性のある電気を通すプラスチック材料が開発されたっていう流れになります。
基礎研究大事ですね。
電気を通すプラスチック用途のちょっと面白いもので言うと帯電防止があります。
そもそも静電気が起きる理由、帯電が起きる理由っていうのは電気を通しづらい材料のところに電子が溜まって、それが手を近づけたりしてパチッと放電することで発生します。
プラスチックが電気を通しにくい材料であるからこそ帯電しやすくて静電気の元になってしまいます。
それに対して電気を通す導電性のプラスチックというのは電気が流れますので帯電しにくいです。
プラスチックに導電性という機能が追加されたことで、金属に頼りがちだったところからプラスチックを使うという選択肢が生まれました。
今回は白川英樹さんの追悼の意も込めまして電気を通すプラスチック、導電性高分子について紹介してきました。
私の周りでは1000倍入れすぎちゃった人っていうことで少し面白い逸話として残っていたんですけど、
よくよく調べてみると失敗した場面をしっかり見て、なぜこうなったかをちゃんと考えて、理論を組み立ててそこから検証していく。
という基本的かつ大事なことを一つずつこなしていくという素晴らしい先生だったと改めて知りました。
変なものが出てきたら捨てる前に一回よく見てみる。
そう思わせていただきました。白川英樹さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
今回はここまでです。お聞きいただきありがとうございました。かねまるでした。



