小さな鍋でうまく作れる煮込み料理も、大きな鍋でたくさん作ると、温まりにくかったり、底だけ焦げたりしがちです。化学工場でも、実験室でうまくいった作り方が、大きな装置では通用しないことがあります。なぜ大きくすると、うまくいかないのでしょうか?

熱は、鍋の底や側面、中身の表面を通して出入りします。鍋を大きくすると、中身の量は大きく増えますが、熱の通り道になる面は、中身ほどには増えません。
大きな鍋は、中身のわりに熱の通り道が狭く、温まりにくく冷めにくいのです。
体積は長さの3乗、表面積は2乗で増える
面積は縦×横、体積は縦×横×高さで求めます。形を変えずに、縦・横・高さをどれも2倍にすると、面積は2×2で4倍、体積は2×2×2で8倍です。体積の方が速く増えるので、体積あたりの表面積は半分です。

台所で、0.5L分を作る鍋から、同じ形で2L分を作る鍋に替えると、中身は4倍に増えますが、中身に触れる鍋の面は2.5倍ほどにしか増えません。熱の入り口の広さのわりに中身が多くなるので、温まるまでに時間がかかります。
大きな鍋を早く温めようと火を強めても、熱が入るのは、中身の量のわりに狭い面からです。そのため、底に触れている部分だけが熱くなりすぎて、焦げやすくなります。かき混ぜると、底で受けた熱が鍋全体に運ばれ、焦げにくくなります。
冷めるときも同じです。農林水産省が、温めたカレーを鍋のままと小分けにしたものとで冷まし比べたところ、室温で1時間たっても、鍋の方は62℃までしか下がりませんでした。小分けにした方は、同じ1時間で40℃以下まで下がっています。
小分けにした容器の方が、中身の量のわりに外に触れる面が広いからです。同省は、ウェルシュ菌による食中毒を防ぐために、煮込み料理を保存するときは、小分けにして早く冷ますよう呼びかけています。
化学工学では、段階的に大きくする
化学工場で原料を反応させる容器(反応器)も、壁を通して中身を温めたり冷やしたりします。外側の覆い(ジャケット)に、蒸気や冷却水などを流すのが代表的な方法です。
標準的な形の例では、体積あたりのジャケットの面積は、1Lの反応器に比べ、1,000Lの反応器では10分の1以下です。
反応で熱が出るとき、大きな反応器では熱を取りきれずに温度が上がりすぎ、反応の進み方や製品の性質がそろわなくなることがあります。そこで、反応器の中に冷やすための管(コイル)を入れたり、外の熱交換器に液を回したりして、熱の通り道を足します。
鍋をかき混ぜるのと同じように、撹拌機で中身を混ぜ、壁から出入りする熱を全体に行き渡らせることも大切です。

ただし、混ぜ方も、同じ形のまま大きくすれば済むわけではありません。小さな装置と同じ時間で全体を混ぜきろうとすると、大きな装置では撹拌に要る動力が大きくなりすぎるからです。
そこで、混ぜる目的に合わせて、液の量あたりの撹拌の動力など、何をそろえるかを選んで大きくします。それでも、大きな装置ほど、全体が混ざりきるまでの時間は長くなりがちです。
小さな装置で確かめた作り方を、大きな装置で実現することを、スケールアップと言います。大きくすると温まり方も混ざり方も変わるので、実験室の次にベンチ、パイロットと段階を踏み、確かめながら本番の装置(商業プラント)へ進むのがふつうです。

まとめ
形を変えずに大きくすると、体積あたりの表面積が小さくなり、温まりにくく冷めにくくなります。大きな鍋をかき混ぜたり小分けにして冷ましたりするのと同じく、工場でも伝熱と撹拌を考えながら、段階を踏んで装置を大きくします。

