電気ポットややかんの内側、蛇口のまわりには、白い汚れがつきます。水垢と呼ばれる汚れで、落とすのにはクエン酸がよく使われます。水垢はなぜできて、なぜクエン酸で落ちるのでしょうか?
水道水には、カルシウムなどのミネラルがわずかに溶けています。水が蒸発したり温まったりすると、溶けていられる量を超えた分が、白い結晶になって残るのです。
水垢は、水に溶けきれなくなったカルシウムなどが結晶になったもので、クエン酸はそれを水に溶かして戻します。
できるのも落ちるのも、溶解度で決まる
水に溶けていられる量には限りがあり、この限りを溶解度と言います。水道水に溶けているのは、カルシウムやマグネシウムのイオンと、二酸化炭素が水に溶けてできる炭酸水素イオンなどです。
水が蒸発しても、イオンは水と一緒には出ていかず、後に残ります。残りの水に溶けきれなくなった分は、炭酸カルシウムなどの結晶になって出てくるのです。蛇口のまわりのように、水がついては乾く所に水垢ができるのは、このためです。

水を温めたときにも、同じように結晶ができます。温まると炭酸水素イオンが分解して二酸化炭素が抜け、炭酸カルシウムができる向きに平衡が移るからです。
溶けているものを、溶解度を超えさせて結晶として取り出すことを、化学工学では晶析と言います。冷やす、蒸発させる、反応させるなどの方法があり、水垢は蒸発や加熱で意図せず起きた晶析です。
クエン酸は、この結晶を水に溶かして戻します。クエン酸の水に多い水素イオンが、水垢の炭酸イオンと結びつき、炭酸水素イオンや炭酸に変えるからです。炭酸の一部は二酸化炭素になって抜け、結晶の相手を失ったカルシウムが、イオンとして水に溶け出します。

「アルカリ性の水垢を酸で中和して落とす」という説明は、化学では正確ではありません。決め手は酸の強さではなく、酸とカルシウムがつくる塩が水に溶けたままでいられるかです。強い酸の硫酸では、溶けにくい硫酸カルシウムができて、水垢は落ちません。
クエン酸とカルシウムがつくるクエン酸カルシウムも、水に溶けにくい塩です。ただ、結晶ができるまでに時間がかかるので、水垢を溶かしてしばらくは、水に溶けたままでいられます。溶かしたまま置いておくと、時間がたって、また結晶になってしまうのです。

クエン酸で水垢を落としたら、すぐに水で洗い流します。クエン酸は、塩素系の洗剤と混ざると有害な塩素ガスが出るので、一緒に使ってはいけません。
化学工学では、伝熱面のスケールを防ぐ
工場でも、水や液を温めたり蒸発させたりする装置では、同じ晶析が起きます。熱交換器やボイラー、液を煮詰めて濃くする蒸発缶では、熱を伝える面(伝熱面)に、炭酸カルシウムなどが結晶になってつくのです。この汚れがスケールです。
スケールは熱を伝えにくいので、伝熱面につくと、装置の熱の伝わりが悪くなります。そこで、ボイラーにはカルシウムなどを取り除いた水を使い、スケールがつかないように水質を管理しています。
蒸発缶で炭酸カルシウムのスケールを防ぐのに最も広く使われているのは、処理する水に酸を加えてpHを下げ、炭酸水素イオンを二酸化炭素にして追い出す方法です。クエン酸が水垢を溶かすのと同じ向きに、平衡を動かしているのです。
それでもついたスケールは、装置を止めて、塩酸などの酸で洗い落とします。
まとめ
水垢は、水に溶けていたカルシウムが溶けきれなくなって結晶になったもので、クエン酸はそれを水に溶かして戻します。台所の水垢も、工場の伝熱面につくスケールも、溶解度で説明できる同じ晶析です。

