街を走る車のタイヤは、ほとんどが真っ黒です。ゴムでできているから黒いと思いがちですが、天然ゴムのもとになるゴムの木の樹液は、牛乳のような白い色をしています。では、タイヤはなぜ黒いのでしょうか?
タイヤが黒いのは、ゴムにカーボンブラックという、とても細かい炭素の粉を練り込んでいるからです。カーボンブラックは印刷インキやトナーの黒にも使われていますが、タイヤに入れる目的は色付けではありません。ゴムを強くするための補強です。
タイヤの黒い色は、ゴムを補強した結果です。
天然ゴムは、もともと白い
天然ゴムは、ゴムの木の幹に切り込みを入れ、流れ出る樹液を集めて作ります。この樹液(ラテックス)は、水の中にゴムの細かい粒がたくさん浮かんだ液体です。粒に当たった光があちこちへ散らばるので、樹液は白く見えます。

牛乳が白いのも、たんぱく質や脂肪の細かい粒が光を散らすためです。身近な輪ゴムも、天然ゴムだけで作ったものはあめ色で、黒くはありません。ゴムそのものは、もともと黒い材料ではないのです。
ゴムを強くする「加硫」
樹液から取り出した生ゴムは、そのままでは使いにくい材料です。温めると柔らかくなって流れやすく、強さも足りません。そこで、生ゴムに硫黄を混ぜて加熱します。この操作が加硫で、名前のとおり「硫黄を加える」ことです。
生ゴムの分子は、長いひものような形です。加硫すると、ひもどうしが硫黄の橋でところどころつながり、全体が網目になります。網目になったゴムは、引っぱっても元に戻る弾力と、ちぎれにくい強さを持ちます。

分子どうしを橋でつなぐのが、架橋(かきょう)です。ゴムの硬さは、この橋の数で大きく変わります。一般のゴム製品では、生ゴム100に対して硫黄は2〜3.5ほどです。硫黄を30%前後も含むものは、エボナイトと呼ばれる硬いゴムです。
加硫は、1839年にアメリカのチャールズ・グッドイヤーが見つけました。タイヤメーカーのグッドイヤー社は、この発見者にちなんだ名前です。ただし、会社ができたのは1898年で、1860年に亡くなった本人は関わっていません。
加硫だけでは足りず、炭素の粉で補強する
輪ゴムも、加硫したゴムです。ただ、タイヤのゴムには、車の重さを支え、エンジンの力を路面に伝えるための大きな力がかかります。加硫だけでは、タイヤに必要な強さに届きません。
そこで練り込むのが、カーボンブラックです。石油などを不完全燃焼させて作る炭素の粉で、粒の直径は10〜100nm(1nmは100万分の1mm)ほどしかありません。練り込む間に、ゴムの分子がこの粒の表面に強く吸い付き、粒とゴムが結びつきます。

こうして、ゴムの強さとすり減りにくさが大きく上がるのです。タイヤの黒は、この補強がもたらした色です。
タイヤには、ゴムのほかにも多くの材料が入っています。重さで見るとゴムは半分ほどで、カーボンブラックなどの補強剤が約4分の1を占めます。残りは、鋼のワイヤーや繊維のコード、加硫に使う硫黄などの薬品です。
加硫したゴムは、溶かして作り直せない
ゴムを強くする加硫は、リサイクルの壁でもあります。比べやすいのは、ペットボトルのようなプラスチックです。温めると柔らかく流れる状態になるので、溶かして形を作り直せます。ペットボトルから、またペットボトルを作るリサイクルも行われています。
一方、加硫したゴムの分子は、硫黄の橋で網目につながったままです。温めても流れる状態にはならず、溶かして新しいタイヤに作り直すことができません。

使い終わったタイヤの8割は燃料になる
日本では、使い終わったタイヤが年に9,000万本ほど出ます(2025年)。回収されたタイヤは、ほぼすべてが何かに使われていて、有効利用率は99.6%です。ただし、その8割あまりは燃料としての利用です。
ゴムも炭素の粉も燃えるので、タイヤは石炭などの代わりの燃料になります。いちばん多く使っているのは製紙工場で、化学工場やセメント工場がそれに続きます。材料として使い直すのは、再生ゴムやゴム粉、形のまま使う原形加工などを合わせた2割弱です。

硫黄の橋を切る、熱で分解する
材料に戻す方法の一つが、脱硫です。硫黄の橋を切ってゴムを柔らかい状態に戻したものが、再生ゴムです。ただ、従来の方法では、橋と一緒にゴムの分子そのものも切れてしまいます。
そのため、再生ゴムの性質は、新しいゴムより大きく落ちます。これを防ぐために開発されたのが、熱とこねる力を組み合わせて、橋だけを選んで切る方法です。
もう一つの方法が、熱分解です。空気(酸素)を断って数百℃に加熱し、ゴムなどを分解して油やガスにします。後には、タイヤに入っていたカーボンブラックが粉として残ります。

ただし、取り出したカーボンブラックは表面にゴムの分解物が付いていて、補強の働きをほとんど失っているのが難点です。タイヤメーカーなどは、取り出した油やカーボンブラックを、新しいタイヤの材料に戻す技術の開発を進めています。
走るたびに出る、タイヤの粉
タイヤは、走るたびに少しずつすり減ります。出てくる粉は、タイヤのゴムと道路の舗装材がおよそ半分ずつ混ざった、平均50〜100μmほどの粒です。この粉は、マイクロプラスチックの一つとして扱われることもあります。

欧州の推計では、陸から出るマイクロプラスチックのうち30〜55%がタイヤ由来です。しかも、この粉は捨てたあとではなく、走っている間に出てきます。
環境省の資料では、すり減る量にいちばん影響するのは運転操作(アクセル・ブレーキ・ハンドルと速度)で、その影響は道路表面の状況の2倍程度です。ゆっくり発進してブレーキを優しく踏む運転と、空気圧やホイールアライメントの点検で、粉を減らせます。
まとめ
タイヤが黒いのは、補強のために練り込んだカーボンブラックの色です。加硫しただけのゴムでは、車を支えて走るタイヤには強さが足りません。細かい炭素の粒とゴムの分子が強く結びつくことで、タイヤに必要な強さとすり減りにくさが生まれます。
一方で、リサイクルを難しくしている原因も、ゴムを強くする加硫です。網目になったゴムは、溶かして作り直せません。いまは8割あまりが燃料として使われ、脱硫や熱分解でゴムやカーボンブラックを材料に戻す方法の開発が進められています。

